今回はデジタル時代のメディアの最重要概念である「読者開発」の具体的な中身に入っていきます。ニューヨーク・タイムズ(NYT)が試みた事例が豊富に語られ、すぐに実践できるものも多いです。

いま、ちょうどニューヨーク市立大ジャーナリズムスクールのプログラムに参加していて、イノベーション・リポートを書いた担当者の一人がゲストで来てくれました。(リアルな話が聞けたけど、オフレコなので書けない!)

世界中から大手メディア幹部や尖ったスタートアップメディアが集まる場で、いまだに議論のネタにある。そのこと自体が、このレポートの凄さを示しています。

目次

  1. ディスカバリー・プロモーション・コネクション
  2. 正しい読者を見つけて届ける「ディスカバリー」
  3. 新しいだけがニュースじゃない「エバーグリーン」の力
  4. データベース化して人気の有料サービスに育てる
  5. 細かい実験を素早く繰り返す
  6. 関連コンテンツを新たな切り口でマガジン化
  7. その人にとって価値のあるコンテンツを届ける
  8. 今回のまとめ

ディスカバリー・プロモーション・コネクション

レポートでは読者開発は「机上の空論として片付けられがち」と指摘し、実際に実験をしてどれだけの効果を上げるかを3つの分野で例示しています。

・読者開発の最初の一歩「ディスカバリー(読者の発見)」
・積極的に記事をアピールする「プロモーション(コンテンツの宣伝)」
・読者との関係性を築く「コネクション(読者との関係強化)」

一つずつ見ていきます。

正しい読者を見つけて届ける「ディスカバリー」

ウェブサイトやアプリ上で、紙時代からの分類で整理された記事を読者自身に探させるのは無茶だ。いつまでも古びないエバーグリーンな記事を何度も読者の目の前まで届けたり、読者の役に立つ形で整理して関連する記事を届けたりする努力が必要だ。

ソーシャルや検索、日本だとヤフーやスマートニュースなどのアグリゲーションサービスがある中で、ニュースサイトのトップページから自分で記事を探す人は減りました。

待っていても来てくれないなら、それぞれの記事にぴったりの読者をこちらから見つけて、届けてあげる。インターネットが素晴らしいのは、それが可能になったことです。

リポートでは、新しい何かを見つけることではなく、自分たちがすでに持っているものを見つめ直すところから始めています。

新しいだけがニュースじゃない「エバーグリーン」の力

NYTは1851年創刊。このレポートが出た2014年当時で、163年にわたる総記事数は1400万を超えていました。宝の山です。

2013年、映画「12 Years a Slave.(邦題:それでも夜は明ける)」がアカデミー作品賞などを獲得した夜のことです。

映画の原作は1853年発表の奴隷自身による体験記。NYTは当時、それを記事にしており、アカデミー賞の夜に記事についてツイートしました。

それを見たインターネットメディア「ゴーカー」がその記事アーカイブをまるごと転載して記事に。派手にバズりました。自分たちで記事化したり、再掲載したりできたのに、宝をみすみす持っていかれたことになります。

記者が考える情報の新しさにばかりに気を取られ、読者が考える「新しい」「役に立つ」情報という観点が抜け落ちていました

データベース化して人気の有料サービスに育てる

「エバーグリーン」の力に気づいたNYTはこのレポートをまとめている途上にも実験を繰り返し、その結果も紹介しています。

たとえば、NYTで人気の文化面。注目の本や博物館や演劇の記事を読者に使いやすい形で整理し直しました。すぐに結果が出なくても、ユーザーの利便性は確実に上がります。

宝は記事だけではありませんでした。過去に掲載した1万9000件を超えるレシピをデータベース・アプリ化し、月額5ドルの大人気サービス「NYT Cooking」に育てています

細かい実験を素早く繰り返す

一つの人気企画が生まれるまでには、多数の実験が必要です。レポートでは実験の仕方まで具体的に説明しています。

このレポートが出るまでは、NYTで「実験」と言えば、野心的な新企画をイメージする人が多かったそうです。

たとえば、雪崩事故を報じる記事に動画やアニメーションをふんだんに盛り込んで世界的に話題になった「スノーフォール」のような。

しかし、このレポートでは実験とはそういった大型企画を意味しません。むしろ、日常的に繰り返して品質向上をはかることを意味します。

次のようなやり方を奨励しています。

・素早く、何度も繰り返す
・目標を決め、進捗を確認する
・成功ではなく実験そのものを称賛する

過去のコンテンツの再利用の方法として、もう一つ、手軽で効果的な方法があることが実験で証明されました。「パッケージング」です。

関連コンテンツを新たな切り口でマガジン化

noteユーザーであれば「マガジン機能」はご存知ですよね。このイノベーション・リポートに関する連載でも使っています。

マガジン機能はまさに「パッケージング(複数のコンテンツを一つにまとめる)」ものです。NYTは豊富な過去コンテンツを使って、様々な「パッケージ=マガジン」を作ってみました。

例えば、その年に亡くなった著名人の記事一覧。バレンタインデイに過去に掲載した「愛」に関する9本のビデオをまとめて紹介。売春や人身売買の問題のリンク集などです。

これらは一度公開されて注目を集め、その後はほぼ忘れ去られて読まれなくなっていました。しかし、再度「パッケージ化」し、そのタイミングでそのテーマに関心がある人に届けることで、多くのビューを集めました

出した側にとっては古くなったコンテンツでも、それを見ていない読者、見ても忘れてしまった読者にとっては、価値ある新しい情報です。

リポートでは、これらのパッケージ化を記者や編集者がNYTのシステムで簡単にできる機能をつけるべきだと指摘しています。まさにマガジン機能ですね。note、さすがです。

そして、ディスカバリーの最後に推奨されているのは、パーソナライゼーションです。

その人にとって価値のあるコンテンツを届ける

2020年の今では、個々のユーザーに最適化されたコンテンツを届けるパーソナライゼーションは当たり前の機能だと感じる人もいるでしょう。

しかし、実はパーソナライゼーションは新聞社にとっては論争の的でした。いまもこの機能を好まない記者や編集者はたくさんいます。

もともと「新聞紙」はその日にあった世の中の政治や経済やスポーツや文化など、森羅万象を取材し、記者や編集者が重要だと考えたものを200本ぐらい選んで広告とともにパッケージ化した商品です。

ニュースのプロが厳選した記事を読んでもらうのが新聞であり、読者にとって必要なものを選ぶのはプロである自分たちという価値観があります。

「アルゴリズムで個々のユーザーに最適化されたコンテンツをとどけるパーソナライゼーション」と「新聞のプロによる編集」は対極の考え方です。

なので、新聞の最高峰であるNYTもパーソナライゼーションのすべてを良しとしているわけではありません。

パーソナライゼーションを受け入れることは、全ての読者に違う記事を届けることではないし、そうすべきではない。これまでの研究でわかっているのは、読者がNYTを読む理由の一つは、NYT自身が重要と考える記事を読みたいからだ

ヤフーにしても、スマートニュースにしても、全読者に共通して読んでもらう記事と、パーソナライゼーションを組み合わせています。NYTも同じアプローチをとりました。

今回のまとめ

・正しい読者を見つけて届ける「ディスカバリー」
・新しいだけがニュースじゃない「エバーグリーン」の力
・データベース化して人気の有料サービスに育てる
・細かい実験を素早く繰り返す
・関連コンテンツを新たな切り口でマガジン化
・その人にとって価値のあるコンテンツを届ける

<p value="<amp-fit-text layout="fixed-height" min-font-size="6" max-font-size="72" height="80">次回は「プロモーション」についてです。次回は「プロモーション」についてです。
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Posted by 古田大輔

ジャーナリスト/メディアコラボ代表 朝日新聞記者、BuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立。2020年9月からGoogle News Labティーチングフェローも務める。